セミナー情報

2025年10月16日(木)
10:30 - 12:00
F608 江端宏之
(大阪大学大学院
      理学研究科)
細胞が示す分岐現象と臨界現象の探求
細胞は化学反応によりエネルギーを取り出し(代謝),外から力を受けずとも自分で動き回り(自発運動),分裂・増殖を行う(自己複製).これらの細胞機能が種の違いを超えて持つ普遍的性質は,物理の観点からどの程度説明可能であろうか?物理学では,相転移点や分岐点など系の特性が定性的に変わる条件近傍では,系の種類によらない普遍的な数理構造が現れることが知られている.したがって,細胞の機能や物性においても「分岐現象」や「相転移現象」を見出し,分岐点・臨界点近傍の振る舞いを調べることで,細胞の機能や物性に潜む普遍性と個別性を明らかにできる可能性がある. 本セミナーでは,細胞運動における分岐現象や,生きた細胞質が示す液体・固体転移について紹介する.具体的には,単細胞生物であるオオアメーバの運動状態が,無生物の泳ぐ液滴と全く同じ運動モード分岐を示すことを紹介する.また,細胞種や細胞骨格構造,力学環境に依存せずに観察される,細胞質の臨界的べき乗則レオロジーや代謝依存的な固液転移についても紹介する.これらを無生物系における類似現象と比較し,共通する物理的メカニズムやどのようなモデルにより一般的に記述できるかについて議論したい.
2025年9月24日 (水)
13:00 - 14:30
豊中共創棟A i-TGP共通講義室(講義室4) 今野直輝
(スタンフォード大学・
      博士研究員)
大規模データから生命進化の過去を理解し未来を予測する
地球上の生物は各々の生息環境で多様な遺伝子を獲得・喪失しながら,複雑で多様なシステムを進化させています.その進化の背後には何か法則性があるのでしょうか?もしあるなら,その法則性に基づいて未来の進化を予測することはできるでしょうか?これらの問いに答えるため,私は大規模データから過去の進化を高解像度に推定して未来の進化を予測する一連の方法論の確立を目指しています.これまでに,100万種以上の種分岐の歴史(進化系統樹)を高速推定する並列計算技術FRACTALや,細菌の遺伝子獲得・欠失による進化を予測する機械学習技術Evodictorを開発し,生物学実験も取り入れながら微生物の代謝・薬剤耐性進化の予測可能性とその背後にある進化のパターンを発見してきました.本講演では進化生物学や情報科学の基盤解析技術(進化系統樹推定、祖先状態推定,機械学習)を解説しながらこれまでの研究を紹介し,「予測進化生物学」の展望を議論できればと思います.
2025年9月23日 (火)
13:00 - 16:20
豊中共創棟A i-TGP共通講義室(講義室4) 学術変革B
「復元細胞機能学」主催
多様な視点から捉える最先端の光合成研究
【プログラム】
13:00 - 13:10 挨拶 渡辺智(東京農業大学)
13:10 - 13:40 講演1: 栗栖源嗣(大阪大学)
        「光合成電子伝達の化学:精密で相補的な構造研究でわかること」
13:40 - 14:10 講演2: 柏野祐一郎(福井工業大学)
        「鞭毛虫Rapaza viridisの盗葉緑体現象と合成生物学的なアプローチの可能性」
14:10 - 14:15 休憩
14:15 - 14:45 講演3: 今野直輝(スタンフォード大学)
        「高感度遺伝子探索でタンパク質進化の歴史とパターンを紐解く」
14:45 - 15:15 講演4: 熊沢穣(北海道大学)
        「細胞内共生が駆動する光合成の柔軟な再編成: 紅色進化系統藻類の光捕集複合体進化」
15:15 - 15:30 休憩
15:30 - 16:15 学術変革B「復元細胞機能学: 集光性アンテナ複合体の復元」の進捗報告
16:15 - 16:20 ラップアップ 松尾太郎(大阪大学)
2025年5月14日 (水)
14:15 - 15:30
F313 星野洋輔
(名古屋大学高等研究院)
生命の進化はどこまで読み解けるか? — 遺伝子と化学化石に残された痕跡をたどる
生命を構成するすべての生体物質は進化の産物であり,その存在自体に現在まで蓄積されてきた進化の歴史が反映されている.研究の対象となりうるのは,生体物質の生合成経路,個々の合成酵素に加えて,合成される生体物質の化学構造も含まれる.特に、一部の生体物質は保存状態のよい地層中であれば億年スケールで保存され,化学化石(バイオマーカー)として”発掘”することができる.現在見つかっている確実かつ最古の化学化石は原生代の16億年前のものである.原生代は,生態系の主役が原核生物から真核生物へと移っていく転換期であったと推測されており,化学化石は真核生物の出現過程と動向についての貴重な情報源となっている.一方,元となった生体物質の合成酵素群の遺伝子情報をたどることで,その生体物質が生物界の中でどのような生物に分布してきたのか,さらにその生体物質が時間とともにどのように構造的に変化してきたかさえ推測することができる.今回の講演では,化学化石によって太古の生命の姿を明らかにする地球生物学と,その背景でいかなる分子進化が起きていたかを解明する分子生物学を組み合わせることで,原生代から今日まで,生命の進化がどこまで解き明かされてきたのか,そして解き明かせるのかを議論したい.
2025年5月14日 (水)
13:00 - 14:00
Online 宮城島進也
(国立遺伝学研究所)
光共生による水圏微生物の貧栄養環境への適応と物質循環
光共生とは,従属栄養性の真核細胞(宿主)と独立栄養性の単細胞藻類(細胞内共生体)との共生系であり,真核生物のさまざまな系統で独立に進化した現象である.近年の地球規模の解析により,光共生は餌や栄養源に乏しい環境で優占することが示され,特に外洋においてはバイオマスの大半を占めることが明らかとなってきたが,その理由は依然として不明である. この理由を明らかにするため,我々は,ミドリゾウリムシ(宿主,繊毛虫)とクロレラ(共生藻)を,窒素源および餌生物を含まない培養液中で培養し,宿主と共生体がどのように貧栄養環境で生育できるのかを調べた.その結果,貧栄養環境で有利に働くと考えられる,宿主と共生体間の物質循環様式を見出した. さらに,ミドリアメーバ(宿主,アメーボゾア)とクロレラ(共生体),タイヨウチュウ(宿主,有中心粒類)とクロレラ(共生体)の培養系も独自に確立し,宿主と共生体間の物質循環の一般性についても探索を進めている. 本発表では,これらの結果を紹介するとともに,光共生系がどのようにして貧栄養環境において優位性を獲得しているのかについて考察する.