当グループの研究内容や研究設備,学生の学位論文などを紹介します.

 惑星物理学,観測天文学,太陽系探査,生物物理学を基調とし,太陽系内のさまざまな天体(小天体から衛星・惑星まで)や系外惑星の成り立ち・進化と,そこでの生命の存在可能性や進化を探究すること,およびそれらを確認・実証するための探査・観測をおこない,そのために必要な観測機器を開発することが,主たる研究分野です.
 それに向けたさまざまな研究課題に対し,理論・観測・実験・開発などから最適なアプローチを選び,駆使して取り組んでいます.

主な研究内容

1. 宇宙生命探査:太陽系から太陽系外惑星まで

 1995年に太陽系外で初めて惑星が発見され,これまでに5000を超える惑星が発見されました.その多くは地球サイズの小さな惑星であり,中には表層に液体の水を保持する可能性のある惑星も発見されてきました.他方,太陽系では太古の火星において液体の水が発見され,さらに木星系のエウロパや土星系のエンセラダス,冥王星などの氷天体では地下海の存在が予想されています.しかし,それらの地球外天体において生命活動を調査することは極めて困難です.そこには二つの理由があります.一つは太陽のような明るい恒星の周りにある極めて暗い地球のような惑星を観測することの難しさや,太陽系天体での生命は局所的な可能性があるために惑星探査においてもその場で直接観測することの難しさがあるからです.もう一つは,太陽系外惑星は点として観測されるために得られる情報が極めて限定的であることです.これまで可視光における反射光や赤外線における熱放射光に含まれる吸収線のガスの組成から表層の生命活動を特定することが試みられてきました.私たちは,地球と生命の共進化という視点(2項参照)に立って,生命活動によって書き換えられる全球規模の地球表層の変化を踏まえて,生命活動の指標を構築したいと考えています.そして太陽系の様々な天体においても個々の天体の成り立ちや進化の過程を理解した上で,地球の生命を基本としてそこでの生命の存在可能性を考えていきます(3項参照).一方の技術的な課題に対しては,明るい恒星の光を打ち消すコロナグラフや編隊飛行によって高い空間分解能を獲得する宇宙干渉計SEIRIOS,太陽系天体における生命の可能性を調べる木星圏探査機JUICEや紫外宇宙望遠鏡LAPYUTAなどの開発や運用にも取り組んでいます(4項参照).

2. 地球と生命の共進化過程

 地球の生命が約40億年前に誕生して以来,地球は生命の進化と相互作用しながらその環境を大きく変えてきました.例えば約24億年前に起こった大酸化イベントは真核生物の誕生を促し,その後の多細胞動物の誕生へと繋がるとともに,地球環境をさらに変えてきました.こうした地球(天体)と生命の共進化という視点は,生命の本質的な理解を深めるだけでなく,太陽系内から太陽系外にわたる宇宙全体での生命の存在可能性を検証するための,ひとつの重要な見方になるでしょう.そうした考え方に立ち,酸素発生型光合成生物の誕生と進化や,太陽系外惑星における生命の存在指標の構築などに向けた,実験的・理論的研究に取り組んでいます.

3. 太陽系天体の成り立ちと進化過程

 地球での生命進化や地球外天体での生命発生の有無は,天体自身の成り立ちや進化と不可分の関係にあります.太陽系に存在する数多くの多様な天体,たとえば小惑星リュウグウのような小天体から,エウロパやエンセラダスなどの氷天体,火星や木星・土星などの惑星に至るまで,それらは大きさや組成,地形や内部構造,大気の有無など極めて多彩な特徴を持っています.こうした多様性がなぜ生まれたかを説明することが惑星科学の大きな目標のひとつであり,その理解の上で生命発生の可能性を考える必要があります.原始太陽系において微惑星が離合集散を経ながら成長し,内部や表層に様々な構造を作っていく(あるいは作らない)進化の過程を解明するために,惑星探査や実験などで得られた知見にもとづいて天体の素過程を記述した理論モデルを組み立てます.また,表面や大気の組成や変動を捉え,そこで起こる現象を理解するために,望遠鏡を用いた観測を行います.

4. 宇宙生命探査や系外惑星観測に向けた機器開発

 太陽系外の地球型惑星を直接観測するためのコロナグラフの開発や,すばる望遠鏡を用いたその実証を行います.また,氷天体での生命可居住環境の探索を含めた大気表層や周辺環境,内部構造の調査を目指すさまざまな探査計画に参加し,その機器開発や観測提案に繋げます.具体的には,2031年の木星系到着に向けて飛行を続ける木星圏探査機JUICEや,2020年代後半から2030年代前半の打ち上げを目指すタイタン着陸機Dragonflyや紫外宇宙望遠鏡LAPYUTA,さらに超小型衛星3機を用いた世界初の編隊飛行宇宙干渉計SEIRIOSの開発と観測提案を行います.

研究設備,器材

宇宙観測用光学実験 光学定盤3台(編隊飛行型宇宙干渉計実験用,コロナグラフ実験用,高精度計測システム),フィールド調査用実験設備(水圏の成分調査,鉱物調査,生物分析),生物進化実験用設備,極低温真空チャンバー,計算用ワークステーション4機(8/8/20/24スレッド).

研究協力機関

東京大学,北海道大学,東京科学大学,名古屋大学,京都産業大学,東京理科大学,国立天文台,JAXA,NASAジェット推進研究所,NASAエイムズ研究センター,ドイツ航空宇宙センター,チューリッヒ工科大学,オーストラリア国立大学など.

これまでの博論・修論・卒論

博士論文

2020年度

  • The Role of Methane Hydrate on Thermal Evolutions of Icy Moons

修士論文

2024年度

  • 氷微惑星の集積と熱進化
  • 中間赤外線宇宙干渉計LIFEの実現に向けた高精度な可動橋駆動性能評価システムの開発

2022年度

  • 太陽系外地球型惑星観測に向けた高安定・高コントラスト分光器の開発
  • Enceladusプルームの土星リングへの組成的影響とプルーム活動期間
  • 氷天体の内部進化におけるアンモニアの寄与
  • 地上望遠鏡を用いたエウロパ可視近赤外観測による軽金属元素と非H2O氷の探索

2021年度

  • 日米共同気球赤外線天体干渉計の光学系調整方式の確立
  • 氷天体内部の高圧氷相境界が氷固相対流のダイナミクスに与える影響

2020年度

  • 海王星衛星Tritonの窒素噴出現象における内部熱構造の寄与
  • 木星衛星Callistoの内部進化:不完全な分化と地下海の維持
  • 氷天体の表面応力と地下海進化:冥王星衛星Charonの断層形成

2019年度

  • Ganymedeの強制秤動:粘弾性潮汐変形を考慮したモデル計算
  • 冥王星表面の氷の昇華と凝結による反射率分布の変化

学士論文

2024年度

  • 土星衛星Enceladus噴出氷の拡散と土星メインリングへの降着
  • 人工衛星を用いたリモートセンシングによる海中の光環境の予測

2023年度

  • 太古代地球海洋の生命圏における光環境モデルの構築
  • 遠赤外線気球干渉計JUStIInEにおける大型平面鏡駆動機構の開発
  • 遠赤外線気球干渉計JUStIInEにおける姿勢制御の高精度化にむけて
  • 磁場発生条件に基づく木星衛星ガニメデの内部構造推定

2022年度

  • 超小型衛星の編隊飛行による宇宙赤外線干渉計SEIRIOSにおける瞳収縮分光を用いた光路長測定の実証
  • M型小惑星の鉄溶融:可視分光観測による組成推定と熱進化モデル計算

2021年度

  • すばる望遠鏡での分光観測による木星衛星エウロパのメタンの存在可能性

2020年度

  • 中型・小型氷天体の熱構造と内部構造の進化:地下海の発生条件と存続期間

2019年度

  • 準惑星Erisの内部熱進化と地下海の存在可能性

2018年度

  • 冥王星衛星Charonの熱史と地下海進化

2017年度

  • 冥王星表面の氷の昇華と凝結による反射率の変化